2日目・前編4(2018年12月16日)
~世界遺産のまち・大牟田へ④―三池港と石炭産業科学館―~
(「世界遺産のまち・大牟田へ③~三池鉱山 三川坑へ~―2018年 九州北部一周の旅・Part9」の続き)
【世界遺産】三池港
三川坑を後にして車で走ること約10分弱、私たちは世界遺産・三池港のほとりにある駐車場(島原方面の高速船乗り場横の駐車場)へとやってきました。
三池港は、三池炭鉱の石炭の運搬や輸出を担うために團琢磨(”三池炭鉱育ての親”、後の三井財閥総帥)の発案で1908年に作られた港です。
この三池港の築港にあたっては、有明海が遠浅(沖のほうまで水位が浅い)で干満の差が大きい(干潮時と満潮時の水位の差が大きい)ために、干潮時には大型船舶を岸辺に泊めておけないくらい水位が下がってしまうという問題がありました。これを解決するために三池港では”閘門”と呼ばれる水位に応じて開けたり閉じたりする水門を設置しました。これにより干潮時には”閘門”を閉めておくことでドック内の水位を一定に保つことができ、大型船舶の停泊が可能になったのです。
三池港はこうした経緯から日本の港で唯一”閘門式”を採用しており、築港から110年以上経った2020年現在でも現役で用いられています。
そして2015年、三池港は三池炭鉱から採掘された石炭の海上輸送や輸出に大きく貢献したことから、他の施設群と共に世界遺産に登録されることになったのです。
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駐車場に降り立つと、三池港や閘門に関する案内板が何個か置かれていました。
- 三池港の駐車場に置かれた看板
- 三池港の駐車場に置かれた看板
- 三池港の駐車場に置かれた看板
三池港は静かで穏やかな港で、岸辺から海側へ目をやると三池港の海と港湾施設を一望できます。
- 三池港の海(海側)
そして内陸側に目をやると、日本の港で唯一の閘門(開いているので門そのものは見えませんが)が遠目に見えました。
- 三池港の閘門(門は開いています)
しばらく海を眺めていると、港の奥から船が出てきて開いている閘門を通過していきました。
- 三池港の閘門から出てくる船
そして船が沖へと向かうのを横目に見ながら私たちは再び車に乗り込み三池港を後にしました。
大牟田市石炭産業科学館
入口・導入展示室
三池港を後にして約20分弱経った13時半ごろ、私たちは大牟田市内では最後の目的地となった「大牟田市石炭産業科学館」に到着しました。
- 大牟田市石炭産業科学館
大牟田市産業科学館は三池炭鉱にまつわる歴史を学ぶことができる施設で、1995年(三池炭鉱閉山の2年前)に作られました。
有明海に面する臨海エリアに建てられた科学館の周辺には、イオンモール大牟田や帝京大学・福岡キャンパスといった大きな施設が立地していました(帝京大学のキャンパスがこんな遠く九州の地にもあるのですね・・・)。
- イオンモール大牟田(科学館から見て道路を挟んだ反対側)
- 帝京大学・福岡キャンパス(科学館の隣に立地、旧ネイブルランド跡地)
※ちなみにこの帝京大学・福岡キャンパスにはかつて”幻の遊園地”とも言われる「ネイブルランド」というテーマパークが建っていました。ネイブルランドは、三池炭鉱跡地の活用のために大牟田市・福岡県と三井鉱山・三井化学などが出資した第三セクター企業によって、三池炭鉱の貯炭場跡地に1995年に建てられました。11ヘクタール(東京ディズニーランドの約1/4)の敷地に遊園地・水族館・植物園を詰め込んだテーマパークで、開園直後にはそこそこの人出がありました。しかし近くにより規模の大きい遊園地、植物園、水族館(動物園)がそれぞれあったことや、規模が小さい割に入園料が高かったことなどから利用者が急激に減少。開園からわずか3年に閉園に追い込まれました。そんな”幻の遊園地”・ネイブルランドは閉園から14年後の2012年に解体されましたが、それまで当時の状態のまま放置され続けていたそうです・・・
そんなだだっ広い施設たちを横目に私たちは石炭産業科学館正面の階段を上り中へと入りました。
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まず中に入ると、色々な模型が置いてある狭いエリアがありました。
- 石炭産業科学館2F
どうやらメインとなる展示施設は1Fのようだったので、ここから階段で1Fに降ります。
1Fに降りると、いろいろな鉄道模型や数時間前に訪れた宮原坑の模型、”三池炭鉱育ての親”・團琢磨の銅像などが置いてありました(1Fインフォメーションコーナー)。
- 石炭産業科学館1Fに置かれた鉄道模型
- 石炭産業科学館1Fに置かれた宮原坑の模型
- 石炭産業科学館1Fに置かれた團琢磨の模型。クリスマスが近いせいかサンタの帽子をかぶっている
その奥のスペースは常設展示室への受付と導入展示室を兼ねたスペースになっており、中央の導入展示エリアでは大小さまざまな石炭などが展示されていました。
- 石炭産業科学館 受付
- 石炭産業科学館 導入展示エリア
- 石炭の展示。実際に持って重さを体感できる
- 石炭の展示
受付横の自動券売機で入館チケットを購入したらいよいよ常設展示室の中に入ります。
常設展示室
常設展示室には主に3つのエリアがあり、三池炭鉱の仕事や暮らしぶり、道具や機械などの展示や解説がされており、それらを学ぶことができます。以下では簡単にですが展示内容を紹介していきます。
①石炭エネルギーの利用
常設展示室の入り口近くにあることもあり最も目に付く展示エリアで、採掘された石炭を用いた機械や設備が展示されていました。石油が台頭する前は蒸気機関車を始め、暖炉やガス灯といった暮らしに欠かせないものにも石炭や石炭エネルギーが用いられていました。
②時代と大牟田のあゆみ
三池で石炭の採掘が始まった江戸時代から明治、大正、昭和、平成と至る三池炭鉱や大牟田の歴史を当時使われた道具の展示と共に解説しています。特に仕事ぶりや暮らしぶりについては炭鉱での労働作業ということもありやはり過酷だったようで、江戸時代は全て人力で採掘や運搬をやっていましたし、近代化が進んだ明治時代以降も過酷だったようです。
③炭鉱技術のあゆみ
常設展示室では最も印象に残った展示エリアで、炭鉱や港の模型が展示されていました。
下の写真は三池港の模型(おそらく炭鉱が現役の頃)で、かつては三池港の前まで三池炭鉱専用鉄道の線路が多数延びていたようです。
- 炭坑が現役の頃の三池港(石炭産業科学館 展示)
下の写真は竪坑式の坑口の模型です。竪坑式はその名の通り坑道へと向かうための穴が竪穴で掘られた坑口で、石炭や人を運ぶためのケージを吊り下げるための大きな櫓が組まれているのが特徴です。竪坑式は、世界遺産・宮原坑(前々回の記事参照)など明治時代に作られた坑口に採用されており、明治時代の炭鉱の近代化の特徴的な技術の一つでした。
- 竪坑式の坑口の模型(石炭産業科学館 展示)
- 立坑式の坑口の模型(石炭産業科学館 展示)
- 坑道で働く人々の様子も忠実に再現している(石炭産業科学館 展示)
上の模型では、宮原坑で見た櫓や巻揚機室以外の地上の設備だったり、地下の坑道の構造、中で働く人々の様子を知ることができました。
そして下の写真は斜坑式の坑口の模型です。
- 斜坑式の坑口の模型(石炭産業科学館 展示)
- 斜坑式の坑口の模型(石炭産業科学館 展示)
斜坑式はその名の通り坑道へと向かう穴が斜めに掘られている坑口で、三川坑(前回の記事参照)など大正・昭和時代に作られた新しい坑口に採用された方式です。ベルトコンベア方式が採用されたことで連続出炭が可能となり、特に戦時中に作られた三川坑は戦中・戦後から炭鉱閉山まで主力坑として活躍しました。
ちなみに下の写真は実際の三池炭鉱の断面図です。
- 三池炭鉱の断面図
下の写真は三池炭鉱の坑道をパイプで表した模型です。
- 有明海地底の坑道の模型
このときまで知りませんでしたが、三池炭鉱の坑道は有明海の海底にも張り巡らされていたそうで、上の模型はその海底に張り巡らされた坑道を模式的に表したものです。手前側のボタンを押すと坑道が光るシステムになっていて、どこにどの坑道があるのかを把握することができます。
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また常設展示室にはその他にもエネルギーを体感できる遊具が設置されており、子供も楽しめるようになっていました(私たちも楽しみました笑)。
ダイナミックトンネル(模擬坑道)
そしてこの大牟田市石炭産業科学館の最大の特徴であるのが「ダイナミックトンネル」。有明海の地下に作られた坑道を再現した模擬坑道で、当時使われていた機械を探検気分で見学することができます。
(訪問当時は本物か模型かの区別がちゃんとは付きませんでした笑。ちなみに「秒速10mで降下するエレベーターに乗って有明海の地下400mの坑道に行く」という設定なのですが、この設定が本物かどうかは未だによく分かりません(汗)・・・)
下の写真が常設展示室内にあるダイナミックトンネルの出入口。
- ダイナミックトンネルの出入口(左側が入口)
ここで係員から坑道へ行くための装備品(作業用腰袋やヘルメットなど、だったかな?)を受け取り、扉の奥へと入ります。
扉の奥に入るとそこは薄暗いエレベーター(?)になっており、係員が外から扉を閉じると動き始めます。(ただこのエレベーターが本物だったのかどうかは微妙なところで、帰りは階段を少し上っただけで出口に着いたので、単純にエレベーターを模したスペースで待機させられていただけのような気がします・・・)
そして到着すると奥側のドアが開き、坑道の入口にたどり着きます。
- 模擬坑道の入口
ダイナミックトンネルの中は坑道らしく薄暗くなっており、その中に坑道で用いられていた様々な機械が展示されていました。
- ダイナミックトンネルに展示された掘削機械
- ダイナミックトンネルに展示された掘削機械のアーム
- ダイナミックトンネルに展示された採炭機械(ホーベル、写真の赤い機械)と天板を支える鉄柱
- 実際に使われていた頃のホーベルと天板を支える鉄柱
- ダイナミックトンネルに展示された坑内列車
- ダイナミックトンネルに展示された炭車
- ダイナミックトンネルの様子と展示された電気機関車(右側)
- ダイナミックトンネルに展示された掘削機械
- ダイナミックトンネルに展示された掘削機械のアーム。人が近づくと実際に動いて当時の様子を見せてくれる
機械の中には人が近づくとアームが動き出す機械もあり、どんな様子で掘削していたかを見ることができます。模擬坑道とはいえ、坑道の中を歩いている雰囲気を冒険気分で体験することができました。
大牟田散策 感想
ここまで午前中から約4時間に渡り大牟田市内に残る三池炭鉱の施設たちを見てきました。正直なところ炭鉱が世界遺産・・・と言われてもあまりピンと来ていなかった私でしたが、実際に見てみると面白い部分もあるし、何より三池炭鉱が日本の近代化に欠かせない歴史的な施設たちであることが分かりました。
正直なところ観光でワイワイ盛り上がれるような感じではないかな・・・と個人的には思いますが、歴史を学ぶみたいな形でじっくり・ゆっくり見学するには見ごたえのある施設だったと個人的に思います。
福岡や熊本など九州に来る際には世界遺産・三池炭鉱を見に是非とも大牟田へ遊びに来てみてください!(←案内してくれたF氏のために宣伝しておきます笑)
今回の記事はここまでとなります。
この後は、引き続き大学時代の友人・F氏の案内で”水の都”・柳川を訪れますが、続きは次回の記事で書きたいと思います。
続きは「水の都・柳川ミニ観光―2018年 九州北部一周の旅・Part11」へ
「2018年 九州北部一周の旅」のその他の記事はこちら、その他の旅行記はこちら
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